ページ

2017年8月17日木曜日

奥の細道序文

松尾芭蕉の一句に想う。

月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。
(月日というのは、永遠に旅を続ける旅人のようなものであり、
来ては去り、去っては来る年もまた同じように旅人である。)

舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、
日々旅にして旅を栖とす。
(船頭として船の上に生涯を浮かべ、
馬子として馬の轡(くつわ)を引いて老いを迎える者は、
毎日旅をして旅を住処(すみか)としているようなものである。) 

古人も多く旅に死せるあり。 

(古人の中には、旅の途中で命を無くした人が多くいる。

予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、
漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、

わたしもいくつになったころからか、
ちぎれ雲が風に身をまかせ漂っているのを見ると、
漂泊の思いを止めることができず、海ぎわの地をさすらい、) 

去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、

(去年の秋は、隅田川のほとりのあばら屋に帰ってクモの古巣を払い、
しばらく落ち着いていたが、) 

やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、

(しだいに年も暮れて、春になり、霞がかる空をながめながら、
ふと白河の関を越えてみようかなどと思うと、) 

そゞろ神の物につきて心をくるはせ、
道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。

(さっそく「そぞろ神」がのりうつって心を乱し、
おまけに道祖神の手招きにあっては、
取るものも手につかない有様である。) 

もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、
三里に灸すゆるより、松島の月先心にかゝりて、

(そうしたわけで、ももひきの破れをつくろい、笠の緒を付けかえ、
三里のつぼに灸をすえて旅支度をはじめると、
さっそくながら、松島の名月がまず気にかかって、) 

住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、

(住まいの方は人に譲り、
旅立つまで杉風の別宅に移ることにして、その折に、) 

『草の戸も住替る代ぞひなの家

(人の世の移ろいにならい、草葺きのこの家も、
新たな住人を迎えることになる。
これまで縁のないことではあったが、節句の頃には、
にぎやかに雛をかざる光景がこの家にも見られるのであろう。)

面八句を庵の柱に懸置。
(と発句を詠んで、面八句を庵の柱にかけておいた。) 




(仙台生活139日目)



0 件のコメント:

コメントを投稿