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2015年4月28日火曜日

水産業普及指導員について

最近、「水産業普及指導員」とは何をする人なのか?という質問を受けます。

名前から何となく役割は分かってもらえるのですが、何となくわからない(笑)。
具体的な活動や一般の人が容易に理解できる説明がどうも必要なようです。

自分自身の見直しににもなりますので、水産業普及指導員の仕事を少し整理することにしました。




まずは、水産業普及活動の対象者(関係者)ですが、大きく漁業者、消費者、行政などの官公庁や研究者らを挙げてみました。

漁業者(生産者)に対しては、①浜からの情報の吸い上げと②漁業者の育成(浜への漁業生産技術の普及や漁家経営への指導など)の活動があります。

消費者に対しては、①消費動向や消費者嗜好の把握と②消費者の育成(消費者への水産業、水産物に関する知識の伝達、水産リテラシー)といったところでしょうか。

官公庁や研究者等に対しては、①浜情報(課題)を行政や研究者へ伝達する一方、②漁業政策や外交、漁業法などの最新の行政情報の習得や③漁業生産技術や販売戦略など科学的な最新知見の学習が活動としてあります。

このようにみると、水産業普及指導員は各対象者と情報のやりとりで双方向に繋がっていることが分かります。

また、普及員と今回提示した各対象者の関係を相関図として示してみました。

それぞれが個別に繋がりを持っているのですが、その中にあって普及員は、対象となる関係者間を繋ぐ「パイプ役」という言葉に置き換えるとしっくりきます。

パイプ役といっても単純に情報を伝えるだけではなく、翻訳者として、各対象者が意図していることを噛み砕いて相手方に伝えるパイプなのです。

例えば、上図には漁業者から直接、消費者や官公庁・研究者というパスがありますが、実際のところ、相互理解が困難な場面が多々あります。

このような時に、普及員が間に入り、情報や意思伝達による相互理解を助け、前進するというところに普及指導員の存在意義があり、水産業を支援していくものと考えるのです。


このような形で水産業普及指導員に対する自分の整理をしたところで、他に水産業普及指導員を述べている文献などがないか探してみたところ、うみ・ひと企画の村上幸二さんが「水産普及ののびしろ-漁業・漁村における課題解決能力を目指して-」、水産振興、第48巻第8号、p1-85. の中に水産業普及指導員の設置経緯や役割のまとめられているのを見つけました。

いくつか引用(一部改変)させていただくと、次のような点がどうやらポイントとして挙げられそうです。

<歴史的な経緯>

・水産の普及は1953年に、漁業者たちに直接働きかける専門技術員が道府県の水産試験場に69名配置されてから始まったとされる。

・1959年に初めて地方公務員として沿岸改良普及員(現在の普及指導員)48名が漁業の現場に配置された後、幾たびかの制度改正を経ながら現在に至っている。

・水産普及の目的は水産業改良普及事業推進要綱(「水産業改良普及事業推進要綱等の制定について」平成17年農林水産事務次官通知)にある。
 
 ⇒ 「沿岸漁業等の生産性の向上、経営の近代化及び沿岸漁業等の技術の改良を図るため、沿岸漁業等の従事者に沿岸漁業等に属する技術及び知識の普及教育を行い、その自主活動を促進し、もって、沿岸漁業等の合理的発展を期する」

・水産の普及の目的を端的に言うと「現状打開のための自主的活動を漁業者たちに促すこと」だと考える、つまり、「漁業者の自主的活動を促すこと」が普及の核心的な目的

<普及員について>

・京都大学の内田准教授は「普及員は実践する社会心理学者」だという(全国の水産業普及指導員の普及行動に関する調査研究より)。

<普及の実践について>

・いかなる場面においても、普及対象者に自発的動機の芽生えと生長を促すことができる視点と力(理論と技術)を持たなければならない結論に達した。

・漁業者の自発的動機のレベルは大きく3つに分けられる

レベル1(L1):「このままではいけない」という漠然とした不安があるものの、行動しようとする意識にまでは至っていない状態

レベル2(L2):「このままではダメだ」という危機感と「何かをしなければ」「したい」という想いはあるものの、何をどうしたらよいか分からない状態

レベル3(L3):危機感を切実に感じ、自ら行動するという自発的動機が芽生えている状態(あまり出会うことがない)

・計画策定と行動開始、行動開始を優先する。

・白隠禅師は「動中ノ工夫ハ静中ニ勝ルコト百千億倍」と言っている。また、同じ1600年代にイギリス人作家が作った「セレンディピティ」(思いがけない幸運に偶然、巡り合える能力)を発揮するには「まず行動すること、次に気づくこと」と、脳科学者の茂木健一郎氏も「まず、行動する」ことを進めています。

・「個人の力」+「支援者の力」=「普及の力」

・研究報告では、事例から普遍的なものを見つけて欲しい。

・日常的な普及活動において、その時々の普及テーマが何であろうと常に漁業者の主体的活動を促す、つまり、自発的動機の芽生えと成長を促すという意識と取り組みが必要である。

・実は普及員の情熱が漁業者たちの自発的動機の芽生えや生長を促す一番の刺激かもしれない。漁業者や漁村女性が「漁師や奥さん」から「リーダー」に、「リーダー」から「経営者」に転身していく姿や漁協職員やメンバーの表情が明るくゆとりあるものになるといった、「人が変わった」と感じる経験は、これを促した普及員自身の大きな「やりがい」や「情熱」、つまり普及の醍醐味となり、普
及をさらに進展させる力となっていく。

・水産普及の進展という志を持つ全水普及協を中心に大学や水産関係機関が幅広く連携して、水産の普及と高度化を目指して行動を起こして欲しい。


⇒ これらの説明を参考にすると、水産業普及指導員は本来は漁業者の自主的活動を促すことが中核となるようです。そして、普及という枠組みを漁業者からさらに拡大し、消費者や官公庁・研究者まで含めて解釈すると、上図に示した広く「パイプ役」としての形で理解できるのではないかと思うのです。

だいぶ長くなってきたので、今回のまとめとして、まずはここでしめることにします。

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